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土砂災害の救助活動現場での二次災害を防ぐ。AI搭載カメラやドローンなどを活用した斜面監視や再崩落事前検知の実証

土砂災害の救助活動現場での二次災害を防ぐ。AI搭載カメラやドローンなどを活用した斜面監視や再崩落事前検知の実証

土砂崩れ発生現場での救助活動において最も障壁となるのが、斜面の再崩落による二次災害の危険性です。救助活動の現場で再崩落からの早急な避難を可能にするのが、崩落の危険度をリアルタイムで把握すること。2025年3月、救助活動エリアでのAI搭載カメラやドローンを用いた技術の実証を、東京消防庁とソフトバンク株式会社が共同で行いました。

戸田 響生(とだ・ひびき)

ソフトバンク株式会社 次世代社会インフラ事業推進室 事業推進部

戸田 響生(とだ・ひびき)

2021年にソフトバンク株式会社に入社。入社以来、AI、画像認識、ドローンなどの幅広い先端技術と現場をつなぐソリューションの企画を推進。現在は、その知見を生かし主に自治体向け防災分野で企画・技術的な実証実施を担当。

土砂災害現場で二次災害を起こさないために

2024年1月の能登半島地震では、東京消防庁の消防部隊が大規模土砂災害現場での救助活動に参加していました。ですが、災害現場全体の状況を把握することは難しく、危険と隣り合わせの活動となりました。
今後、他都道府県における土砂災害での消防部隊出動に備え、再崩落による二次災害を防ぐためにどういった技術が必要とされているのか、担当者に聞きました。

土砂災害現場で二次災害を起こさないために

現在、土砂災害現場での救助活動では、再崩落による二次災害を防ぐためにどのような手法が使われているのでしょうか?

土砂崩落現場の岩などの物体にレーザー光を照射して、物体の動きを再崩落の予兆として通知する機材が使用されています。レーザー光はリアルタイムで危険をすぐに検知できる一方、照射の範囲は限られます。照射範囲外の大規模な土砂災害現場の上流部の観測はドローンや目視により監視しています。

斜面状態を監視するAIを搭載したカメラが再崩落の予兆を検知

こうした大規模な土砂災害現場において東京消防庁からの提案もあり、現場全体を機械的に監視することで、土砂の再崩落などの予兆を把握することができるのではないかと、ソフトバンクおよびパートナー企業のAI技術やセンサーを活用した複合的な監視方法を提案。東京消防庁第九消防方面訓練場で土砂崩落を再現するために盛り土を使った実証実験が行われました。

課題を解決するために、どういった監視方法で実証したのですか?

救助活動現場からの距離によって、監視方法を分けました。
まず、土砂災害現場の中下流部は、再崩落が起きたらすぐに土砂が到達してしまうため、早急に避難する必要があります。そのため、斜面状態を監視するAIを搭載したカメラを使用して、小さな変化も検知できるようにしています。
中下流部とは違い、上流部では避難に比較的猶予があるため、センサーを用いて大きな変化を捉えられるように、監視手法を切り分けて考えました。

中下流部でのカメラを使った監視の仕組みを教えてください。

使用したのは株式会社イクシス製のカメラ・AIソリューションで、崩落斜面に向けて設置することで、岩や枝などの特徴物を捉えて自動で検知できます。監視をスタートした後に対象物が動くことがあれば、土砂の再崩落の危険性ありとしてアラートが自動で発報される仕組みです。

斜面状態を監視するAIを搭載したカメラが再崩落の予兆を検知

重機で土砂の動きを再現。動いた対象物が赤で表示されている

重機で土砂の動きを再現。動いた対象物が赤で表示されている

カメラを設置するだけで、小さな動きも自動で検知できるんですね。

今回提案した手法では、斜面から60m離れた場所からカメラで2cmの変位を捉えることが可能であるため、既存の監視機器の置き換えとして有効性があると考えています。
また、今回東京消防庁の隊員の方にレクチャーし、実際にカメラの設置まで行っていただきました。設置方法は簡単で、5分程度レクチャーしただけで、3分で設置が完了しました。

斜面状態を監視するAIを搭載したカメラが再崩落の予兆を検知
斜面状態を監視するAIを搭載したカメラが再崩落の予兆を検知

土砂災害の上流部の斜面には、ドローンを活用して傾斜センサーを設置

斜面の動きを数センチ単位で監視する必要がある中下流部に対して、上流部はカメラでの直接の監視が難しく、避難には比較的猶予があるためドローンを使って傾斜センサーを置く手法を実証しました。

傾斜センサーとはどういったものですか。

今回使用したのは株式会社オサシ・テクノス製のセンサーです。センサー自体はシンプルな仕組みで、斜面に置いて遠隔でリセットボタンを押せばセンサー自体の傾きを検知することが可能で、クラウドを経由して数秒ごとに結果を通知します。今回の実証ではドローンでのセンサー設置後に崩落再現を実施し、傾きの変化からアラートを発報することを確認しました。

実証ではどのようにドローンを活用しているのでしょうか。

現場を想定した目視外飛行により、センサーを搭載したカゴを約40度の急な斜面に設置することに成功しました。ドローンを使用することで、人が入れないような危険な場所にも安全にセンサーを設置可能です。

ドローンでセンサーを運搬している様子

ドローンでセンサーを運搬している様子

40度の斜面にセンサーを設置することに成功

40度の斜面にセンサーを設置することに成功

災害時だけでなく、平時から使えるインフラへ

今回の実証実験で得られた結果を、今後どのように展開していく予定なのでしょうか。

今回実証した技術については、2027年頃の実用化を目指しています。
また、この監視技術は、災害時のみならず平時においても活用できると考えています。海岸や砂防施設の監視を通じて防災対策に役立てたり、サーフィンや釣りなどの観光業に貢献することが可能です。また、火山活動などの自然災害の予兆監視への応用も期待されます。平時、有事を問わず、汎用(はんよう)的に利用できる次世代デジタル社会インフラとしてさらに発展させていきたいと考えています。

災害時だけでなく、平時から使えるインフラへ

有事だけでなく平時もなじみのある技術になっていきそうですね! ありがとうございました。

(掲載日:2025年4月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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